こんばんは。
森鴎外といえば、『舞姫』や『高瀬舟』が有名ですが、
今回取り上げるのは『うたかたの記』です。
『うたかたの記』は1890年の初出で、
『舞姫』『ふみづかひ』と共にドイツ3部作といわれています。
<あらすじ>
ドイツはバイエルン王国の首都ベルリン。
絵画を学ぶ留学生の巨勢は、ドレスデンで出会った花売り娘にひと目惚れする。
数年来彼女のことが忘れられない彼は、自作のローレライのモデルにもしていた。
ある日巨勢はひと目ぼれしていた花売り娘、マリィ・ハンスルと再会する。
彼女から接吻を受け驚く巨勢だが、
友人エキステルは彼女が美術学校のモデルで狂女だと告げる。
後日巨勢は彼女を自分のアトリエに招き、そこで彼女の出自を知る。
彼女の父スタインバハは高名な画家であったが、
母マリィに懸想する王ルートヴィヒ2世に気付き、
王都を離れ貧しい暮らしの中で命を落としており、母も後を追うように亡くなった。
孤児となったマリィを引き取ったのは湖畔の漁師夫婦で、そこでハンスル姓となった。
都会で暮らすマリィの狂女のような振る舞いは、自らの身を守るためであった。マリィに誘われて訪れたスタインベルヒ湖で、2人は雨の中散策し、船に遊ぶ。
しかしそこで母マリィへの想い捨てがたく狂人となった王ルートヴィヒ2世と遭遇する。
母マリィの面影をマリィに見た王はマリィに近づかんとし、
驚いたマリィは湖に落ちてしまう。
巨勢はマリィを引き上げるも、杭に胸を打ちつけたことで、彼女は帰らぬ人となり、
王ルートヴィヒ2世は従医グッデンともに溺死してしまう。国葬の日、心配したエキステルがアトリエを訪れると、
やつれきった顔でローレライの前に跪く巨勢の姿があった。
『舞姫』では日本人留学生 豊太郎 が主人公であるのに対し、
こちらの日本人留学生 巨勢 はマリィの相手として描かれています。
両者に共通するのは、エリートとして描かれる割に平凡であり、
”ありふれた小さな不幸”を背負った少女に翻弄されるところにあります。
『舞姫』の豊太郎は鴎外自身をモデルとして書かれたといわれていますが、
『うたかたの記』の巨勢はミュンヘン留学時代の友人、原田直次郎だといわれています。
またマリィの名は、原田の愛人からとっているそうですが、原田さんも災難でしたね。
数世紀に渡り愛人との悲話を語られ続けることになろうとは。
本文は青空文庫で読むことができますし、
解説等は文庫版や全集に収録されています。
したらば。